八つ目を作らないことにした
問題が起きるたびに新しいものを作りたくなる病
サービスを作れるようになると、妙な病にかかる。
すべての問題が「新しいサービスを作ればいいのでは?」に見え始める病だ。以前は不便を我慢するか、既存のツールを探すか、ただ手作業でやった。しかし今では何か不便があると、自動的にこう考えてしまう。「これを自動化するサービスを作ればいいじゃないか。」
5月のある夜、私はこの病の発作を経験した。
StackTubeを使っているうちに問題が一つ生じた。分析ノートがひたすら溜まるだけだった。YouTube動画を分析するとノートが生成され、それがPDFで、マークダウンでフォルダに溜まる。ところがそのノートを再び開くことがほとんどなかった。作るのは自動なのに、見返すのは手動で、手動の作業は結局やらなくなる。
デジタルホーディング。デジタル収集強迫。ダウンロードはするが二度と見ない、あれだ。自分が作ったツールが、むしろその問題を加速していた。以前は動画を見ずに流していたのが、今度は分析ノートを見ずに溜め込む。形が変わっただけだ。
病が発作を起こした。「この問題を解決する新しいサービスを作ればいいのでは?」
頭の中ですでに名前まで付いていた。StackBrain。溜まったノートを再び取り出して見させる、知識回顧サービス。スペースドリピティション、AIタグ付け、週次ダイジェスト、ベクター検索。機能が次々と浮かんだ。管制塔に嬉々として説明した。競合サービス11個を調査してほしいと頼んだ。Readwise、NotebookLM、Recall、Heptabase、Mem……知識管理メソッド9個も整理してほしいと。PARA、ツェッテルカステン、BASB……
管制塔が調査をしてくれた。そして調査の末に、こう言った。
「これは別サービスとして作る問題ではありません。StackTubeの中に入れるべきです。」
理由は明確だった。私には自分で定めたルールがあった。同時に活発に開発中のプロジェクトは3つを超えない。そして12週以内にユーザー100人または月$200の売上を超えられなければ畳む。このルールは感情抜きで事前に定めておいたものだった。
StackBrainを作れば8つ目のサービスになる。すでに7つのサービスロードマップがあるのに、そこにもう一つ乗せることになる。しかも、まだ最初のサービス(StackTube)すらきちんと定着していない状態で。
管制塔の論理はこうだった。デジタルホーディング問題は本物の問題だ。しかしこれはStackTubeユーザーが抱える問題だ。StackTubeが作ったノートをStackTubeが見返させればいい。新しい家を建てる必要はない。既存の家に部屋を一つ増やせばいい。
この言葉を聞いて、私は少し恥ずかしかった。
新しいサービスを作る方が問題を解決するより面白くて、そちらに傾いていたのではないか。「StackBrain」という名前を付けたときのあの高揚。それは問題を解決したい気持ちではなく、新しいものを作りたい気持ちだった。問題は口実で、本当の動機は「新しいことを始める快感」だった。
これはソロ起業家が最も警戒すべき罠だった。プロダクトスプロール。製品が際限なく広がること。マスタープランにもリスク1位として記されていた。「7つの製品を同時管理」する危険。私はまだ1つもまともにできていないのに、8つ目を作ろうとしていた。
結局StackBrainを畳んだ。代わりにその機能——回顧、タグ付け、ダイジェスト——をStackTube内の機能として統合することにした。
ところがこの病は再発性があった。
同じ日、また別の発作が来た。今度はモバイルだった。StackTubeをスマホでも使いたかった。ならばネイティブアプリを作らなければならないのでは。iPhoneアプリ、Androidアプリ、Macアプリまで。
管制塔に聞いた。「ネイティブアプリを作った方がいい?」
また止められた。
管制塔の分析は冷静だった。StackTubeは「一度設定すれば勝手に回る」サービスだ。チャンネルを登録しておけば新しい動画が上がるたびにバックグラウンドで分析し、結果をメールやObsidianに送る。毎日アプリを開いて何かを操作するサービスではない。ニュースレターに近い。
こういうサービスにネイティブアプリは過剰だと。ネイティブアプリの利点——プッシュ通知、ホーム画面へのインストール、オフラインアクセス——の80%はPWAで達成できると。PWAはウェブサイトなのにアプリのようにインストールされるものだ。そしてApple App Storeを通すとアプリ内課金手数料の問題まで生じる。開発に4週間から10週間かかるが、その時間があればロードマップの他の仕事——日本ローンチ、次のサービス——を押しのけてしまう。
二度の発作、二度の制止。一日に二度、AIが私に「作るな」と言った。
不思議なことだ。AIはコードを作ってくれるツールだ。「作って」と言えば作る。ところがそのAIが「作るな」と言っていた。そしてその助言は正しかった。
ここで学んだことがある。作れる能力が身につくと、作らない能力が同じくらい重要になる。ハンマーを握ると、すべてが釘に見えるという言葉がある。サービスを作れるようになると、すべての問題が新しいサービスに見える。しかしほとんどの問題は、新しいサービスではなく既存サービスの改善で、あるいはいっそ作らないことで解決する。
節制こそが戦略だ。
これはコードを書くことより難しい。コードはAIが代わりに書いてくれる。しかし「これは作らないでおこう」という判断は自分でしなければならない。そしてその判断を下すには、新しいものを作りたい衝動に打ち勝たなければならない。衝動に打ち勝つのは技術ではなく規律だ。
八つ目を作らないことにしたその夜、私は何も作らなかった。そしてそれがその日の最良の決定だった。
🔧 このエピソードの技術用語解説
デジタルホーディング(Digital Hoarding) デジタルファイルを溜め続けるが、見返したり整理したりせずに積み上げるだけの習慣。ダウンロードしたPDF、保存したブックマーク、キャプチャしたスクリーンショットが溜まる一方になること。
プロダクトスプロール(Product Sprawl) 製品や機能が制御なく増え続ける現象。ソロ起業家には致命的で、管理できる以上のものを作るとすべてが手薄になる。
キルクライテリア(Kill Criteria) プロジェクトを中止する基準を事前に数字で定めておくこと。「12週以内に100人または月$200未達なら中止」のように。感情ではなく基準で判断するための仕組み。
PWA(Progressive Web App) ウェブサイトなのにアプリのように動作する技術。ホーム画面にインストールでき、プッシュ通知も受けられ、オフラインでも一部動作する。ネイティブアプリを別途作らずともアプリ体験のかなりの部分を提供する。
ネイティブアプリ(Native App) iPhone用、Android用に別々に作るアプリ。App Storeを通じて配布される。機能は強力だが開発コストが大きく、App Store課金手数料(通常15〜30%)の問題がある。
スペースドリピティション(Spaced Repetition) 間隔反復学習法。学んだ内容を次第に長い間隔で反復復習すると記憶に長く残るという原理。Ankiのようなアプリが代表的。